新字体と旧字体、正字と通用字・略体、
拡張新字体と印刷標準字体

 漢字の字体について、若干の混乱が見られるようですので、あらためて整理したいと思います。

新字体と旧字体

 新字体とは、1949年(昭和24年)に内閣告示された「当用漢字字体表」で示された漢字の字体のことを指します。「当用漢字字体表」では「漢字の読み書きを平易にし正確にすることを目安として選定し」「異体字の統合、略体の採用、点画の整理など」がはかられました。
 その後、1981年(昭和56年)の内閣告示で「当用漢字」は「常用漢字」にあらためられましたが、漢字の字体に関しては、「当用漢字字体表」が踏襲されました。
 しかし、2010年(平成22年)の内閣告示で改定された「常用漢字」のうち、追加された196字の一部は「当用漢字字体表」を踏襲したものにはなりませんでした。なお、これらの漢字の一部は、パソコンで正確な字形を表示できないようです。

 旧字体とは、当用漢字(常用漢字)の新字体に対応した言葉です。
 旧字体は、「当用漢字字体表の実施に関する件」(1949年)で「字体の不統一」と指摘されているように、定まった字形はありません。ここが、新字体と大きく異なる点です。
 旧字体とよく混同されますが、当用漢字(常用漢字)に含まれない漢字は、表外漢字・表外字と呼ばれます。

正字と通用字・略体

 正字とは、漢字の意味や成り立ちから「正当なもの」とされる漢字です。しかし、中国においても、この「正当なもの」は、時代によってその字形に変遷が見られるといわれています。また、日本の漢和辞典においても「正字」とされるものが違う場合もあるようです。

 長い漢字の歴史のなかで、中国と日本の漢字では、字形が異なる部分も生じてきました*。

*たとえば、「かわや」の正字は「廁」ですが、日本で広く使われてきた(国語辞典に載っている)漢字は「厠」です。

 日本で旧来から使われてきた漢字の字形は、「いわゆる康熙字典体」と呼ばれることがあります。
 しかし、旧字体で説明したように、「いわゆる康熙字典体」といったものも、漠然としたイメージに過ぎず、定まった字形というものは存在しません。

 「当用漢字字体表」以前から、筆写の場合などでは、簡略化した字形が用いられてきました。よく話題にあがる「森 鷗外」も、手紙などでは「鴎外」を用いていたともいわれています。
 簡略化した字形のうち、比較的広く用いられてきたものは、通用字、略体などと呼ばれます。
 また、正字と字形が異なる漢字をまとめて「異体字」と呼ぶこともあります。

拡張新字体と印刷標準字体

 拡張新字体とは、1983年(昭和58年)のJIS改訂で、簡略な字形に変更された字体のことを指します。これは、一部の人たちにとっては大変不満なものであったようです。

 印刷標準字体とは、2000年(平成12年)に当時の国語審議会から答申された、「表外漢字字体表」で示された漢字の字形を指します。「表外漢字字体表」では表外字の中から1022字が選ばれ、うち175字が2004年に改訂されたJIS X 0213で、字形変更されました。字形変更された175字は「従来書体とN 書体(印刷標準字体)」をご覧ください。
 これには批判も少なくなかったようで、「常用漢字字体表」や「常用漢字表」などとは異なり、内閣告示に格上げされることはありませんでした。
 印刷標準字体は、「いわゆる康熙字典体」だと受け止められる向きもありますが、餅(餠)、讃(讚)などのように、「いわゆる康熙字典体」とは認めがたいものも少なくありません。

 なお、出版・印刷関連業界では、拡張新字体(1983年改定のJISの字体)を従来書体、印刷標準字体(2004年に改訂されたJIS 0213の字体)をN書体と呼ぶことがあります。

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